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インジェクタブルゲル
 インジェクタブルゲルとは、高分子水溶液を液体のまま体内に注入し、その注入後にゲル化するもののことを指します。従来のすでにゲル状になったものを体内に埋植する際には、切開手術が必要ですが、このインジェクタブルゲルは注射により体内への埋植が可能になるため、患者の身体的負担を軽減できます(低侵襲)。また、通常の外科手術では体内の深層部位にゲルを埋植する場合に、その周囲の正常組織を傷つけてしまうことがありますが、注射針を使えば容易にその針先を深層部位まで到達させることができますので、インジェクタブルゲルを使うことで周囲の正常組織を傷つける心配がありません。このゲルには、短時間でゲル化する性質とそのゲル自体の毒性が低いことが求められます。本研究室では、これまでに天然多糖であるペクチンを主材料としたインジェクタブルゲルを開発しています。

柑橘由来ペクチン (1)
 柑橘由来ペクチンを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化処理すると、その分子構造内にアルデヒド基が生成します。その酸化ペクチンを水に溶解し、そこに複数のアミノ基やヒドラジド基を有する物質を添加すると、アルデヒド基とアミノ基(またはヒドラジド基)間に化学結合(架橋)が生じ、
数分でゲル化します。ゲルの架橋密度を制御することで、このゲルが抗がん剤の徐放性を有することを確認しています。


 酸化柑橘由来ペクチンのゲル化メカニズム.

甜菜由来ペクチン (2,3)
 甜菜由来ペクチンはその分子構造中にフェルロイル基を有しています。西洋わさび由来ペルオキシダーゼの存在下で、過酸化水素による酸化反応によりフェルロイル基同士が重合し、その結果、甜菜由来ペクチン水溶液は
1分以内に迅速にゲル化します。抗がん剤を含むこのインジェクタブルゲルにがんの成長を抑制する効果があることを実証しています。


(a) 甜菜由来ペクチンのゲル化メカニズム. (b) 免疫不全マウスのがんモデル. (c) 抗がん剤含有ペクチンインジェクタブルゲルの抗がん効果. 

(1) Takei T., Sato M. et al., In situ gellable oxidized citrus pectin for localized delivery of anti-cancer drugs and prevention of homotypic cancer cell aggregation, Biomacromolecules 11:3525-3530 (2010)
(2) Takei T., Sugihara K. et al., In situ gellable sugar beet pectin via enzyme-catalyzed coupling reaction of feruloyl groups for biomedical applications, Journal of Bioscience and Bioengineering 112:491-494 (2011)
(3) Takei T., Sugihara K. et al., Injectable and biodegradable sugar beet pectin/gelatin hydrogels for biomedical applications, Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition 24:1333-1342 (2013)

  
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